好きでやってることなので。

好きなものとかの話

北海道マンガミュージアム構想と『あさきゆめみし』×『日出処の天子』展

※当記事は、この二人展が両先生のファンだけでなく、北海道出身の他の漫画家さんのファンや、創作をする人を含めて全ての漫画ファン、「北海道にマンガミュージアムができたら素敵だな」と思う全ての人にとって重要なイベントであることを力説しております。せめて無料エリアだけでも!f:id:aqualightblue:20240310092435j:image

イベントの詳細はこちら→『あさきゆめみし』×『日出処の天子』展 -大和和紀・山岸凉子 札幌同期二人展-/札幌市 (city.sapporo.jp)

 

北海道は数多くの漫画家を輩出している、ということを皆さんご存じだろうか。

北海道出身の漫画家さんの数は東京・神奈川・大阪に次いで第4位とも言われており、人口比率からいうととんでもない割合(笑)マンガ好きな方ならおそらくパッと数人はあがるのでは?吾妻ひでおいがらしゆみこ佐々木倫子……

北海道がそんな素晴らしいマンガ大国であることをもっと多くの人に知ってほしい、と「北海道マンガミュージアム構想」を立ち上げたのが「あさきゆめみし」「はいからさんが通る」などで有名な大和和紀先生、そしてそれを後押ししたのが「日出処の天子」「アラベスク」「テレプシコーラ」などの山岸凉子先生だ。

このお二人の呼びかけに多くの北海道ゆかりの漫画家さんたちも賛同している。

 

発起人

代表 大和和紀 副代表 山岸凉子

荒川弘 いくえみ綾 石川サブロウ 板垣恵介 魚戸おさむ

大西巻一 さとう輝 島本和彦 瀧波ユカリ 東元俊哉

花輪和一 星野之宣 本庄敬 安彦良和 ヤマザキマリ 山下和美

賛同者

オノヤマコズエ 河原和音 ささやななえこ 椎名軽穂

野田サトル フォビドゥン澁川 水野美波 目黒あむ

もんでんあきこ 

モンキーパンチ 三原順 ※個人のため遺族の方が賛同者

※敬称略

 

北海道マンガミュージアム構想には、現在、札幌市が共同の動きを見せており実現へ向けての可能性を模索している最中。今回、札幌で大和和紀先生と山岸凉子先生の二人展が実現したのも、その一環という訳だ。

 

つまり、この二人展は両先生のファンだけでなく、北海道出身の他の漫画家さんのファンや、創作をする人を含めて全ての漫画ファン、「北海道にマンガミュージアムができたら素敵だな」と思う全ての人にとって重要なイベントなのです!

 

会場内にはグッズ販売お二人の本が読めるスペースなど「無料エリア」もあります。

無料エリアには北海道マンガミュージアム構想に関するご意見を募集しているコーナーもあります。ふせんに一言書くこともできるし、ノートにびっしり書くこともできます。大和先生、山岸先生の「本当に読者、マンガファン、市民が求めているものはなんなのか知りたい!」というお気持ちが伝わってきます。いままで両先生の作品に触れてこなかった方たちも、まずは無料エリアを訪れてみてはいかがでしょうか。

 

札幌市のマンガミュージアム構想関係の資料はこちらから→Microsoft Word - 【修正】マンガ複合施設構想書230511.docx (city.sapporo.jp)

 

※途中で口調が変わるのは仕様です

 

さてここからは二人展の中身をご紹介していきます。

なお、説明のなかには二人展初日に行われた両先生のトークショーからも引用します。

司会ヤマダトモコさん(お名前が分かったので記事を修正しました!)が「展覧会で一番楽しいのは作家の方の解説を聞きながらまわること」ということで、ギャラリートークのイメージで話されていましたので、覚えていることをちょこちょこ書いていきます。

<1>両先生と札幌について

四角い展示スペースの1面に主催の札幌市の市長の挨拶と、両先生の挨拶文が掲示されています。

別の1面には両先生の経歴が書かれたボード

また別の1面は山岸先生が高校生の頃、大和先生と一緒に、雪まつりで来札された手塚治虫先生にマンガを見てもらったエピソード(のマンガ)を大きく引き延ばしたもの

もう1面には大和先生の大通公園で過ごした幼少期の思い出を描いたマンガが掲示されています。

つまり、ここでお二人のエッセイ漫画を1本ずつ読めるわけです。

両先生のマンガは既出のもの。札幌や北海道出身の両先生世代の方は、大和先生のマンガは昔懐かしい感じで楽しめるかと。山岸先生のマンガは手塚治虫先生に興味がある方も面白いと思います。

次に通路のようなスペースですが、両先生の札幌や道内での思い出の地のご紹介パネルがあります。もうなくなってしまった4プラの「西林」で落ち合っていた話とか(初日のトークショーによると当時は西林は地下ではなく地上にあったそうな?私は結局一度も西林に行ったことがなかったのでちょっと残念)大和先生がご出身の北星学園とかが載っています。

<2>モノクロ原画

大和先生、山岸先生、それぞれ40ページ程度のモノクロ原画(つまり生原稿です)が展示されています。スペースの突き当たりの壁一面にそれぞれあさきゆめみし日出処の天子のカラー絵を引き延ばしたものがドーンと掲示されて(というかそれが壁になって)います。

あさきゆめみしはたぶん単行本の7巻に掲載されている部分です。大和先生は「漫画が展示されていたら、みなさん『読む』だろうと思ったので一塊のエピソードを選んだ」ということで、展示スペースの一番はじめにコメントがひとつ掲示されています。ここを選んだ理由は「自分もアシさんもノッている頃」でエピソードとしても転換期で面白いので、というようなお話でした。

日出処の天子のほうは物語の最初から最後までのいくつかのシーンを抜粋で展示しており、原稿一枚一枚に山岸先生のコメントが!先生は「原稿を選んでコメントを書けと言われたから……」とのことでしたが、大和先生が「見る人がどう見るか、どのエピソードが良いか」など「客観的」に判断しているのに対し、山岸先生のなんと「直感的」なこと(笑)対照的で面白かったです。山岸先生ももちろん読者のことを考えて「サービスシーン」を選んでくれています(笑)ご自分で描いたすごいシーンにさらっと突っ込むコメントも山岸先生らしくて楽しいです。

トークショーでは大和先生曰く「漫画を描かない方はあまりご存じないかも知れないが、漫画はチームプレー」とのことで、アシスタントさんとのエピソードも。

「几帳」(当時の衝立みたいなやつ)を先生「縦180センチ横180センチくらいで(布の)素材はたぶん木綿、ひも(?)のところは絹、錦で~」アシさん「どうして倒れないんですか?」「それはしっかりした土台があって~」など説明したり。アシスタントさんは当時の建築の資料集めなどされていて、それで詳しくなったのか、もともと詳しい方の話なのか、ちょっと分からなかったのですがその人が「この人の位は?……なるほど、元○○だったら庇の下の部分が○○でもおかしくないですね(※○○の具体的な名称は覚えられませんでした)」大和先生「ソウネ(知ったかぶりw)」みたいなお話も。

山岸先生が「構図が良い」と指摘した、手前に紅葉、奥に建物と人物が描かれたシーンでは「もみじを描くのが上手いアシさんがいたの(笑)」と。山岸先生も、日出処の天子のラストシーンの海の絵などはアシさんが苦労した、と。「同じ幅の線を等間隔に描き続ける技術が必要なのです」それを先生は強引にアシさんに資料を渡し「この海を描くノダ。」と(笑)山岸先生はホント、キャラが可愛らしい。大和先生も「あなたならできる、なんて言ってね(笑)」と。着物の細かな柄なども面倒くさがらずに(?)描いてくれるアシさんあっての作品だと。

写植をしてくれる出版社のスタッフ(担当?)さんの話も。当時は写植もひとつひとつ作って手で貼っている。どうしても斜めになってしまう人もいたとか?あとは(訂正のため?)紙を半分に切る(スライス?!)技術なんかもあった。山岸先生はあるとき担当(?)さんが原稿を見て一生懸命ぶつぶつ読み上げながら手書き文字を書き取っていて、それを聞いていると途中から「たぬきうどん、かきあげそば……」え!?と思って原稿を見ると欄外にアシさんととったお昼の店屋物のメモが(笑)司会の方「印刷に載らなくてよかったですね(笑)」山岸先生「厩戸皇子!待ってください!親子丼。」(笑)とっさにこのボケが出る頭の回転の速さよ~~。(ヒント:ご年齢)

アシさんや担当さんの苦労も感じながら見てみると面白いと思います(笑)

私はお二人の背景の違いも面白かったです。大和先生は細かな書き込みで平安の世界に入り込めて、一方山岸先生のなんて「背景のない」こと!(笑)あるけど、物がとても少なくて抽象画みたいなのが多いんですよね。「雨乞い」の王子の背景はアンモナイトの断面図だそう。大和先生はアンモナイトがお好きなのですぐにそれに気づいたと得意げに仰っていて可愛かったです。山岸先生もお好きでいくつかお持ちだとか。あと山岸先生の背景は舞台の「書き割り(あるいは幕)」のように平面的に描かれて、手前に描かれた人物と地面がつながっていないのも良くあるなあとか、王子の着物ってこんなに青海波柄が多かったのね、など気づく点がたくさんありました。

 

たしか、ここと次の間に両先生の他の作品を紹介するパネルがありました。

私は時間がなかったのでスルーしちゃいました……。

 

<3>カラー原画

この記事の一番上の画像がこのカラー原画のスペースの写真です。

真ん中に両メインビジュアルを引き延ばした壁(ここだけフォトスポット)があり、二辺ずつの面にあさきゆめみし日出処の天子それぞれのカラー原画が展示されています。カラー原画は合わせて45点。それぞれに先生からのコメントが載っていますが、書き下ろしコメントではないのかな?山岸先生のコメントのうちいくつかは下にご紹介する本に載っているのと同じでした。カラー絵はおそらく出版社が選んだものだったようなので過去の出版物からコメントを転用しているのかも知れません。あるいは過去の展示会のもあるのかな?

まあ、原画の美しさはとんでもないです。着物が好きな方とかも楽しいと思う。

これは両先生ともですが、すんごく細かい着物の柄などもびっしりと書き込まれています。大和先生の絵で青がすっかり退色してしまったクジャクの絵があるのですが、白い紙に白で着物の柄が描かれているのもそれはそれで綺麗でした。(しかしこういった退色や、原画の散逸などを防いで保管・管理しよう、というのもマンガミュージアム構想の目的のひとつです)

トークショーでは山岸先生が「あなたの輪郭線は白なのね」と。大和先生「着物の色の重なりが線が黒だと汚くなってしまうので」なるほど~。大和先生は「山岸先生はベージュ系の背景が多い?」「(下の素材?)の色そのまま使えるので……」「色塗るだけでも滲むものね」など。

その他トークショーでは大和先生が山岸先生へ「仏像絵も多いですよね。お好きなんですか?」山岸先生「聖徳太子なので……」(それはそうw)大和先生「仏像絵は私も描きましたが難しい。自我がでてしまう」お二人で「修行が必要」というお話も。確かに山岸先生が日出処の天子で描かれている仏像とか仏、というものはある意味で無慈悲で感情がなさそうに見えるし、だいたいそのような位置づけでもある。日本人的な宗教観から考えると、それも必然なのかも知れない、と個人的には思ったり。

あとは大和先生から「男性の裸が多いですね。お好きなんですか?」とか「腐女子ですねw」というイジりがあって笑ったwそんなこと言えるの大和先生しかいません!山岸先生はそこはかとなく認めてるけどいつも表現はボヤッとさせてますよね(笑)

王子と毛人、布都姫と刀自古がのったカラー絵に大和先生「王子は手が込んでいるけど女性陣(特に布都姫)なんてずいぶん簡単じゃない?」(笑)山岸先生「布都姫は読者からもずいぶん嫌われました(汗)」大和先生「私は刀自古が好きですね。(はっきりした性格というか)王子と結婚するときに自分でパッと口紅を塗っているところとか」山岸先生「私、刀自古に化粧なんてさせましたっけ……?」させましたよ!!!(笑)とても印象的な場面です。刀自古が男前な美女であるのに対し布都姫が「男が好きそうな女」なところがまた……と思ったりして(笑)まあ刀自古も中身はヤンデレなんですが。大和先生はお二人の共通点として画風が「(北海道の気候のせいか)乾燥している感じ」と仰っていて、日出処の天子なんて中身はドロドロなのだけど山岸先生の絵のおかげでサラッと読める、と。

カラー原画のなかでも異色(?)だったのは、山岸先生の馬屋古女王(うまやこのひめみこ)。すでに描いてあったカラー原画を角川が販促の大きな看板で使いたいから「足首の先を足してくれ」。ということで元は足首までだった絵に「紙を貼り足して」足首から先を描いたという絵があります。これはびっくり。

改めて、こうしたカラー原画というのは美術品、芸術品だと感じました。

 

最後にグッズ!

この企画展のために両先生が自ら選んだイラストを使用したオリジナルグッズです。やべえ!(笑)マステがたまりません。日出処の天子からは「王子の着物柄3種」あさきゆめみしは確か「明石の君、紫の上、六条御息所」の3種です。

グッズ詳細はこちら(PDF)→20240227goodslist_2 (city.sapporo.jp)

 

私の戦利品はこちら

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この本に載ってたカラーイラストのコメントが会場に掲示されていました。

 

おまけ<お花>

先日、武道館で行われた大泉リサイタルに両先生からお花が来ていたので洋ちゃんから来てるかな?と期待しましたが、伊藤亜由美社長名義で来ていました。

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弥生美術館から

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そして萩尾望都先生からは大和先生と山岸先生それぞれへ

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それぞれ作品のイメージに合わせたお花になっていて素敵です。

 

 

最後まで読んでくださりありがとうございました。

この記事を最後まで読んだ方がこの二人展に行きたくなってくれていたら嬉しいです。

 

追記:

トークショーの最後、大和先生「数年前、こんなこと(北海道マンガミュージアム)ができたらいいと思うんだよねーと言ったら、滅多にそういうことを言わない山岸さんに『いいと思う!ぜひやるべき!』と言っていただき……」山岸先生「大和さんは私が力強く言ったように仰っていますが、私はなにも考えずのほほんと『いいんじゃなーい』というつもりで(笑)」というお話が面白かったです。山岸先生、ときどき巫女になるから(笑)大和先生には自分がやろうとしていることに賛同してくれたことがすごく力になったのだと思います。

北海道マンガミュージアム設立が実現するよう応援しております!